CRAL COX
とにかくスケールのデカいDJである。ゴアトランス、ハードハウス、ミニマルテクノ、はてはドラムンベースまで何でもこなす。ロバ−ト・アルマ−ニまがいのガチガチのシカゴハウスを回すかと思えば、ポ−ル・ヴァン・ダイクばりのジャ−マントランスに走ったりと、その引出しの多さに唖然とさせられるほど。彼ほど音楽の許容範囲の広いDJも珍しいのではないだろうか。しかも、どんなジャンルのトラックをかけてもそのどれもがカール・コックスのカラーとして消化されているのには驚く。おそらく市場に出まわっている海賊版ミックステープの数もナンバー1であろう。世界中のプロモーター/オ−ガナイザ−から引っ張りだこなのも頷ける話だ。彼ほどのネームバリューの持主なら集客力もある程度保証されているし、よほど偏った音楽的嗜好の持主でない限り、常に満足させるだけの力量を持っている。格闘技でもやらせたらけっこういいところにまでいくんじゃないかと思うような巨体から、信じられないような繊細な音のマジックを紡ぎ出す。まるで津波かハリケ−ンにでも遭遇したかのように、圧倒的なエネルギーで迫ってくるのだ。そのパフォ−マンスから発生するオ−ラは人間のそれではなく、あたかも「物の怪」が取り付いているかのようだ。
80年代後半にクリエ−タ−としてデビュ-した彼だったが、その嗅覚の鋭さからDJに転向したといってもいい。メイン・ストリームからアンダ-グラウンドに至るありとあらゆるサウンドを逸早く嗅ぎ分けながら、常に自分の嗜好にあった音を探し出す能力において、この人の右に出る人はそういないだろう。
本人はそろそろ引退したいなんてほざいているが、もちろん詭弁にきまっている。(笑) この男こそ皿を回す為に生まれてきたのだ。それは、CRAL自身がおそらく一番よく自覚しているであろう。